Instructor

人間は生きている限り「発達したい」という心に変わりはないんです。

 

山口:放課後等ディサービスで講師の活動を始められたということですが、どんなきっかけで始められたんですか?

岩瀬:2年ほど前、息子の勤めている企業の関連会社から「講師を」という依頼があったんですね。元々、私は大学で社会福祉を学んだわけですし、子ども達のコンサートや音楽劇を創る際も「子どもの発達」を考えた作品づくりを大切にしてきたので、その経験をマンツーマンに近い形で生かせるのではないかな?そう思って引き受けることにしました。

山口:ほぉー、大学は音大ではなく社会福祉でしたか。

岩瀬:そうです。大学に入る前から将来は音楽に携わりたいと思っていましたが、その為には音楽そのものよりも人間を学ばなければと思ったわけです。いわゆる人間学とは違って、いろんな境遇に置かれて生活している人間をね。それで、社会福祉学科に入ったんですが、でも、実際には遊んでいることの方が多かったかな?(笑い)社会福祉は宗教とも大きくかかわっていて・・・ほら、幼稚園なんかでも「○○寺幼稚園」なんていうところもある位で、当初は慈善的な精神で生れてきた所も多いわけです。「慈善としての社会福祉」ですね。これが近代になってからは「権利としての社会福祉」つまり社会福祉は同情や恩情ではなく当然の権利なのだという考え方が確立してきたわけです。ですからすべての子どもに「発達権」があると思って公演活動もやってきました。ただ、日本では「発達権」も含めて「子どもの権利」が充分保障されているかと言えば、そうでもないようです。「子どもの貧困」や「いじめ」「虐待」という深刻な問題もありますよね。

山口:「発達権」・・・具体的にはどのようなことですか?

岩瀬:「育つ権利」のことです。「育つ権利」の中にも「親や家族と一緒に生活することができること」なんかもあるんですが、「自分らしく育つ」というのも権利なんですね。より良い自分を創り出す権利といいますか・・・子ども達は、いつも「よりよい自分」をつくろうと努力しているんですね。これを「発達力」と呼んでいるんですが、誰もが生れながらに持っているわけです。私のグループの音楽劇なんかを観ている時でも、子ども達は、ただ一方的に受け身で観ているわけではないんですよ。子ども達の反応を見ているとよくわかるんですが、きわめて能動的に作品を観ているのだといつも感じます。物語を観ながら、登場者との価値観と自分の価値観の「違い」や「共通点」をじっくりと吟味しているんですね。その作業を通じて「脳のネットワーク」を整理したり「新しい価値観」を蓄えていくんです。

山口:ははぁー、そんな風に劇を観ているんですね。

岩瀬:「心の発達」が充分に保障されるために大切なのは「自由な認識」なんですね。児童心理学では”自分の意思が働いてものをつかんだときが「最高の認識である」”と言われています。誰の力も借りないで自分でおもしろいことを探すことは、子どもにとっての「最高の快感であり権利」なんですよ。ところがほらよく「過保護」という言葉があるように、大人がそれを遮ってしまっている場合があります。「虐待」もそれとは真逆の行為ですがアイデンティティが欠如してしまうわけです。そういう子どもは、「指示待ち族」になってしまう危険があるんですね。「自分で考えるという脳の回路」が未成熟になってしまうんです。ですから、小さいころから「イマジネーションの翼を自由に羽ばたかせる」そういう機会をたくさん与えてやるべきだと思うんです。スマホやテレビのゲームなんかもとても心配です。子どもを取り巻く文化状況の問題でもありますね。子どもの頃養った感性は一生に影響を与えます。ちゃんとした感性が育っていれば理性は後からでも習得できるんです。

山口:なるほど、そんな思いで講師活動をやられているわけですね。講義はどんな内容なんですか?

岩瀬:もっぱら身近な物を使っての楽器作りが多いですねー。楽器作りは「手」を動かします。手の労働は「脳の発達」と密接に関わりあっていますからね・・・それから、「うまくできたー」「失敗したー」などと楽しみながらコミュニケーションの能力も育っていきます。大切なのは、子どもの目線に立ってあげることですね。みんな私のことを「先生」ではなく親しみを込めて「よっちゃん先生」と呼んでくれます。自分では「先生」というつもりはまるでないです。ちょっと大きな友達といった感じです。将来的には「劇遊び」や「ミュージカル遊び」にも挑戦したいと思っています。

手作りの楽器を楽しむ子ども達

山口:それは、楽しそうですね。最後に、先程ちょっと聞いた話で「100歳大学」の講師にもなられたとのことですが、どんな計画があるか聞かせてください。

岩瀬:「100歳大学」はシニア世代のための大学です。顧問と教授ということで、荷が少々重い感じがしますが結構気楽に考えています。「思い出の歌コンサート」とか「夢を実現しよう会」とか・・・まだ始まってないのでうまく言えませんが、とにかくいろいろと楽しく遊ぶことを考えています。人間は生きている限り「発達したい」という心に変わりはないんです。

山口:今日はどうもありがとうございました。

 


●情操音楽教育センター Seed 代表
●ハッピーアカデミー(100歳大学) 顧問・教授
●NPO法人ほがらか企画 理事

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